◎ポーランド、ワルシャワ近郊
ジェラゾヴァ・ヴォラのショパンの生家

1810年3月1日、フレデリック・ショパンはジェラゾヴァ・ヴォラに生まれた。ジェラゾヴァ・ヴォラは、ポーランドの首都ワルシャワから西へ約60キロメートルの場所に位置する小さな村である。当時、ショパン一家は父ミコワイがスカルベク伯爵家の家庭教師を務めていた関係から、伯爵家の屋敷に併設された別館に暮らしており、ショパンはこの地で誕生した。
生後7カ月で一家はワルシャワへ移住したが、ショパンにとってジェラゾヴァ・ヴォラは特別な場所であり、夏休みやクリスマスのたびに訪れていたという。

現在、家族が暮らしていた建物は現存していないものの、かつての屋敷跡には博物館が整備され、ショパンが生まれた当時の家具や内装が丁寧に復元されている。館内には家族の肖像画やショパンの直筆譜、家族に宛てた手紙など、彼の生涯と結びついた貴重な品々が展示されており、訪れる者にその面影を伝えている。

ショパンの生家を囲む一帯は現在、公園として美しく整備されている。園内には、世界各国から贈られた多種多様な樹木が植えられ、季節ごとに咲き誇る色とりどりの花々が訪れる者の目を楽しませる。傍らを流れるウトラタ川のせせらぎもまた、静けさと潤いを添え、この地ならではの風景を形づくっている。
19世紀、ショパンがこの地にいたころの面影を思い浮かべながら、ゆったりとした時間の中で散策を楽しむのも一興である。また、毎年5月初旬から9月末までの毎週日曜日には、園内でショパン作品の演奏会が催されており、自然の中で響くピアノの音色が、かつてこの地に生きた音楽家の存在を静かに伝えている。